寒川光一郎の【東京JAZZ見聞録】------(7)

最先鋭音楽集団ティポグラフィカ登場!

今堀恒雄(Tsuneo Imahori)<前編>



衝撃ティポ体験

 「寒川は今堀のバンドを聴いたことある?」「いえ、まだありません。梅津さ
んのシャクシャィンとかでは聴いてますけど」「それならぜひ聴いてごらん。あ
のバンドは本当にいいよ」。
 今回の「東京JAZZ見聞録」。それは、渋谷(毅)さんとのこんな会話をきっか
けにして始まった。確か渋谷さんのオーケストラを聴きに行った時のこと。演奏
も終わり、グラス片手にくつろいでいると、渋谷さんは、あのいつもの口調でに
こやかにこう語りかけてきたのだ。
 「ボクは単純に彼のファンなんだ。以前何回かピットイン(新宿)で観て、
オッ、かっこいいなあってね(笑)。彼はものすごく難しいことを平然として演
るんだ。別にこんなの簡単だよって顔して。しかも彼の曲は、細部にまで渡って
実に丁寧に、神経を配ってつくられている。普通は、なんかつまんなかったり、
だれてしまうところが必ずあるものだけれど、彼にはそれがない。ボクはああい
う風に演ってみたいとは思わないけれど、何かひとつの音楽のあるべき姿のよう
なものを感じる」。
 渋谷さんがここまで絶賛する、今堀恒雄率いるティポグラフィカ(以下ティ
ポ)。ちょうどその話を聞いていたオーケストラのメンバーでもある林(栄一)
さんも「じゃあオレも行ってみよう」ということになり、ふたりでティポのライ
ヴに足を運んだのが、確か5月のこと。
 いつも持ち歩いている寒川ノート(ライヴ日記のようなもの)を改めてひっく
り返し、その時(5月25日)のペ一ジを開いてみると「なんじゃ、これは!」とい
う文字がひと際目につく。以下その抜枠。「変拍子とキメの嵐。しかもグニョグ
ニョうねる。変態的。プログレの影響なのか。とにかく曲が強力に変なのだ…
…」とまだまだ続くのだが、まあ改めて読み直してみるとなかなか笑えるものが
ある。と同時に、ほとんどなんの解説も分析もなく、ただただ無知丸出しの感嘆
文に終始していることに、衝撃の強さがうかがい知れると言っても良い。ライヴ
の後、林さんとふたりで飲みに行ったのだが、林さんも「おもしろい」を連発。
「MAZURUとは正反村だけどオレは好きだよ」と語っていたのが印象的であった。

変拍子(?)グルーヴ

「なんじや、これは!」で始まった私のティポ体験。しかし、感じ方や程度の差
こそあれ、初めてティポの音楽に接して何のインバクトを感じない者などいま
い。何しろ最初は何が何だか、さっぱりわからないのである(私だけなのかもし
れないが…)。これは一体どういう変拍子なのか、なぜリズムを取っているとズ
レてしまうか。しかし、聴いていくうちに、実はこれはいわゆる変拍子ものでは
ないことに気付く。ほとんどが4拍子でありハイハットもきっちりと刻まれている
のである。それを感じると、そこにはさまざまなズレが生じていることが見出さ
れ、それらによって引き起こされるゆらぎが、実はべ一シックなリズムと相反す
ることなく、なんとも言えない心地良さを感じさせてくれるとともに、実に生き
生きとしたグルーヴ感をも生み出していることに気が付くわけだ。まさにティポ
は強烈にグルーヴしているのである。
 「変拍子って嫌いなんですよ」と今堀恒雄は語る。私の第一印象を例に挙げる
までもなく、よく超変拍子のプログレ・バンド(笑)と誤解されてるティポに関
しても、変拍子の曲はほとんど無いと言う。「変拍子だと数えちゃったり、演っ
てて頭で考えちゃうからね。人と演っても、自分がグルーヴしようというところ
と必ずぶつかる。それが嫌い」。
 変拍子には変拍子なりのグルーヴ感がある。しかし、それは発想そのものが完
全に数学的であり、多分に強圧的である。まあ、言ってみればそれらが呪術的ま
たは束縛的とも言える快感を引き起こすわけだが(ちなみに私はそれも嫌いでは
ない)、はっきり言ってそんなものはティポとは無縁である。実ほ私の秘かな愉
しみ(?)でもあるプログレに関しても、この点は同様だ。「プログレはまあ聴
いたけど、体に入ってこなかった。これはヨーロッパのものだと思った。なんか
数字っぽくて」。
 そう、確かにティポのリズムは数字的ではなく、むしろ言葉的なのである(こ
のことは、“なまり”や、“リズムの進化もしくは細分化”ということで追い追
い紹介していきたい)。

ティポのスナップ(1)

 数回のメンバー・チェンジを経て、現在のメンバーに落ち着いた、最先鋭音楽
集団ティポグラフィカ。リーダーであり、ギターリス卜であり全作品の作曲者で
ある今堀恒雄のもとに集まった現メンバーは以下の通り。
菊地成孔(ts,ss) 松本治(tb) 水上聡(kb)
佐野篤(b) 外山明(ds) 大儀見元(per)
 中でも、ティポの最小ユニットとも言えるギター・トリオ(今掘、佐野、外山)
は、しばらく新宿ピットイン昼の部において活動してきたこともあり、トリオと
してのコンビネーション、グルーヴ感、そして実にイマジネイション豊かなサウ
ンドの拡がりがまさに圧倒的である。最近では、セカンド・セットの1曲目に演奏
される「ティポグラフィカのアメリカ」くらいでしか、このトリオの演奏に接す
る機会はないが、そのリズム・コンビネイションのすばらしさは、他のメンバー
たちも思わずくやしがるほどである。
 その佐野篤、と外山明。彼らの今堀恒雄との出会いは、いずれも松本治率いる
グループ、「ストレス」においてである。
 S-KENのバンドにも参加している佐野篤は、いわゆるジヤズ・フィールドにおい
てはほとんど無名と言っても良い。しかし、「スーパー・ローとグルーヴ担当」
(今堀)と言われるように、ティポの中にあってひと際ポップなラインを司どる
彼のベース・プレイは、生き生きとしたグルーヴ感に満ちあふれている。「この
人のビートは本当にすごい。音としてすごい下(ボトム)にいる人でもあるし、
絶対上に飛ぴ出てこない。ものすごく安心感がある。譜面をこなした上にロック
の精神を持ち込んでくれるっていう感じかな」と今堀が語れば、外山明も「キン
グ(佐野)は最高だし、大好きなベ一シスト。ああいうべ一シストってなかなか
いないし、みんなはそのよさがわからない」と言う。
 そんな外山は、「こういうバンド、前からすごくやりたかったんです。だから
今、幸せでしょうがない。生きがいになっちやった(笑)」と語る。「自分はリ
ズムというものにとても興味があったし、アフリカとかにもとても興味があっ
た。譜面では全部タテ割りで切っていくことができるけれど、実際にはそうでは
ない。たとえば、今こうして話しているリズムだってタテ割りにはできないし。
だからそういうタテ割りにはできないリズムを何かやりたかった。そんな時に彼
(今堀)に出会って、これだ!って思ったんだ」そう語る外山のコンセプはまさ
にティポのコンセプトそのもの。出会うべくして出会ったと言って良い。ティポ
にとって外山の参加はひとつの転機となったのだろう。「彼が入って、作る曲の
リズムに容赦がなくなった」と恐ろしいことをおっしやる今堀恒雄も、「外山く
んが死んじやったらティポは終わりだよね」と言って笑う。その理解力、演奏能
力、センスと、どれを取ってもドラマーとしてのパーフェクトぶりを発揮する外
山明。しかもいつもスティックをはなさないというように、絶えず向上心を持ち
続け、コミュニケイションを大切にする姿勢が、ティポのクリエイティヴィティ
を支える大きな支柱にもなっているように思える。
 その外山と更に絶妙なコンビネイションを聴かせる大儀見元。ティポの最も新
しいメンバーである。以前はオルケスタ・デ・ラルスを率いていた大儀見。「で
も彼は決してサルサやラテン一筋ではない。好奇心がとても旺盛だし、常に自分
のリズムを生み出すことができる」と外山は語る。今堀も、「外山くんとこれほ
ど合うやつはいない」と言い切る。「リズムに関しては完璧だし、何の説明の必
要もない。色づけが非常にうまいし、しかも絶対じゃまにならない。とても存在
が大きいやつだし、奥行きとかが深くなった。リズムの面でも外山くんも楽に
なったし。前はひとりで普通のドラマーの2、3人分くらいのことはやってたか
ら」。
 しかし、たいへん残念なことに、大儀見のティポでの活動はとりあえず中断。
12月には単身ニューヨークへと旅立っていく。しばらくはニューヨークを拠点に
活動を展開することになっている。

ティポグラフイカ誕生

今堀恒雄ティポグラフィカの結成は86年。オリジナル・メンバーとして残るの
は、今堀の他に菊地成孔と水上聡のふたりのみである。結成当時のことを菊地は
こう語る。「その頃ボクは某音楽学校に通っていだんだけど、後から彼(今堀)
が入ってきて、先生よりもうまいやつが入ってきたとか言って、授業にギャラ
リーが付くような感じだった。私もギャラリーでしだが(笑)。そのうちクラス
が一緒になって、バンドをやろうってことになった。編成は、ギター、べ一ス、
ドラムス、キーボード、サックス。その時にいいなって言ってたのは、ゴールデ
ン・パロミノス・トリオ(フレッド・フリス、ビル・ラズウェル、アントン・
フィア)。カルチヤー・ショックだった。当初は、ゴールデン・パロミノスのイ
ディオムと、そう、ブリティッシュ・フォーク・ロックのよさというものがあっ
た」。
 ブリティッシュ・フォーク・ロック、またはブリティッシュ・トラッド。これ
について今堀自身は、「バンドのサウンドというよりもボク自身のギター・スタ
イル」と語っている。手元にある今堀桓雄のプロフィールをみると、「62年埼玉
生まれ。12歳の時、アコースティック・ギターを弾き始め…」とある。つまり、
これに当たる中学生の頃、今堀少年が熱を上げていだのが、ペンタングル(バー
ト・ヤンシユ、ジョン・レンボーンというふたりのすばらいフォーク〜ブルー
ス・ギターリストが結成した、ユニークなグループ)を中心とするブリテッ
シュ・トラッドなのである。中学生の時にブリティッシュ・トラッドとは、なん
ともませているというか、いささか、風変わりとも言えるが(私も中学の時にバ
ンジョー弾いてブルーグラス演ってだのだから人様のことは言えないが…)、ア
クースティックなフィーリングやニュアンスを感じさせる彼のギター・スタイル
もしくはアプローチには、こうした影響が少なからずあると言えるのかもしれな
い。このペンタングル。ティポの初期の頃には、そのカヴァーを1曲プレイしたこ
ともあるとのこと。加えて、やはりカヴァーとしてディーヴォの「トゥー・マッ
チ・パラノイア」も取り上げたということで、これもなかなかの驚きものであ
る。まあ、しかしカヴァーはあくまでカヴァー。しかも今となっては聴くことの
できない作品の話にスペースを割く必要もない。再びメンバーの横顔に、話は進
む。

ティポのスナップ(2)

 ティポ創立メンバーのひとりで、メンバー中最年少の水上聡。鈴木賢司のバンド
を経て、東京少年に参加。その経歴をみる限りでは完全にロック系のキーボー
ディストと言って良い。幼少の頃よりクラシック・ピアノをみっちりとたたきこ
まれ、それと同時に小学生の時には、すでにシンセを手掛けていたという。16分
や32分音符、そして5連・6連符など、たたみかけるようなすさまじい音符を、い
ともたやすく弾きこなしてしまうテクニック。
「森へ行く方法」や、「裸のランチ」など、今堀のギターとのユニゾンもまさに
圧倒的だ。「キチガイ度は一番高い」という今堀のお墨付き(?)からもわかる
ように、水上のキーボードは超個性派集団ティポの中にあっても特異な位置を占
めている。「単音でなにかポコポコ弾いていることが多い。バッキングというわ
けでも、ソロというわけでもなく、なにかを演ってる」水上のプレイを今堀はこ
う語る。「音色にすごく特徴がある。日本人にはあまりない感覚。それと、キー
ボーディストだと、よく音を埋めてしまうんだけれど、彼は絶対にそれをしな
い。どちもかというとあまり弾かないし、人が弾きすぎたりすると、ライヴ終
わった後そっと怒ったりしてね。“あの人、今日は弾きすぎましたよね”とか
言って(笑)」。ステージ上では5人のメンバーたちを間にはさみ、今堀と向かう
ような形でプレイを展開している水上聡。その位置関係さながらに、彼のプレイ
は絶えずティポのサウンドに音のスペクトルを照射し続けている。
 さて、もうひとりのオリジナル・メンバーは、そのサックス・プレイのみなら
ず、ステージ上でのひねりの効いたウィットあふれるMCぶりでも楽しませてくれ
る菊地成孔。ティポ一のインテリと噂される(?)彼に、真偽のほどは?とたず
ねてみると、「とんでもないですよ。大体インテリなんてね、この世の世界じゃ
なんの役にも立たない。リズムが悪くて、ピッチが悪くて、音色が汚なかったら
終わり」と、なかなかブラックなフレイズで笑わせてくれる。現在、若手を集め
た山下洋輔ニュー・トリオとも共演している菊地であるが、「ティポは菊地とふ
たりで作ったようなもの」(今堀)と言われるように、彼のインテリジェンス
(やはりこう言っておきたい)はティポの音楽性に重要なカラーリングを施して
いる。「サックス奏者として何の不自由もないし、曲の意図もすごくよく理解し
てそのように吹いてくれる」と当然のことながら今堀の信頼度も極めて高い。
「練習だけしたからって音楽がよくなるわけじゃないっていう見本だよね」とい
う松本治の言葉も、菊地に村する高い評何の一端をもの語る、なんともさびの効
いたフレイズである(ああ、私はどうする…)。
 そんな菊地の知られざる(というわけでもないが)才能は“言葉”である。
“曲名大臣”と今堀が呼ぶように、ティポのすべての曲のタイトルは、菊地の命
名によるものだ。ざっとあげたところで、ご存知W.S.バロウズの代表作のタ
イトルでもある、「裸のランチ」をはじめ「重力異状の競馬場」、「笑う写真」、
「うなずかない男」、「給食N」、「新しき猿のように」、「森へ行く方法」、
「お墓参り」、「無限電車」、「子供の宗教」、「Kings Golden Toilet
(K.G.T)」等々。まあポップというのか何というのか、タイトルだけでも充分
に楽しめる(もちろんライヴで実際に演奏に接すれば、その絶妙なネイミングが
わかるはずだ)。当の菊地は曲のネイミングについてこんな風に語っている。
「タイトルを付けると、ある程度イメージが限定されてしまうみたいなことはあ
るかもしれない。でも、あんまり限定しちゃって、曲の可能性が狭められてしま
うことがあってはマズイなということはいつも感じているんです。名前つけて良
くなったということになればいいなと思っている。バランスが悪いというか、力
の合わせ方がへタなものってあるでしょ。すごく演奏も良くて曲もいいけど、曲
名がお座なりだとか、すごく考えて作ってあるんだけど、演奏がお座なりだと
か。そうではなくて、曲も良くて演奏も良くて曲名も良くて、観てもかっこいい
とか、そういうものを全部集めて力を合わせられればいいなと思ってる」。
 ちなみに91年11月現在の最新作2曲のタイトルは「東芝製SEXフレンド(別名:
大仏頭)」と、「森」シリーズの第2弾、「森を出る方法」である。

崩壊≠破壊

 ティポ結成当時、彼らの方向性に少なからず影響を与えたゴールデン・パロミノ
ス・トリオ。菊地も語っていたように、今堀がこのトリオの持つイディオム、方
法論に強くインスパイアされたことは、本人も充分に認めるところである。
「ゴールデン・パロミノスには、それまでのものとは即興のやり方、あり方にお
いて、明らかな違いがあった」と今堀は語る。「短いテーマをぐるぐる回して、
その中で崩壊していくというのが、とても新しく感じられた」。
 “崩壊”。これは当時、今堀が感じとったものを菊地がワード化したものであ
る。ティポの音楽性を物語る。ひとつのキーワードと言っても良い。「しっかり
したテーマがあって、それが崩れていく過程、そして微妙なゆらぎに強い興味を
持った」。これを間違っても“破壊”と解釈しては困ると、今堀は強調する。
“崩壊”と“破壊”。これがティポの音楽と、いわゆる世で言うフリー・ジャズ
との大きな相異点である。「フリー・ジャズと称されるものは全然興味がなかっ
た。壊すべきものがあって、それをぶちこわしておしまい。そんな音楽は嫌い
だった」。今堀は自分なりの“崩壊”の手法を摸索し始める。「でも、ゴールデ
ン・パロミノスのそれは、基本的には即興だし、しかも相手が人であるというこ
とで、その意図を伝えたり、再現するのがとても難しかった。最初は全然出来な
くて、ただの破壊ものになってしまったりもした」。こうして、今堀の“崩壊”
は、次第にスコア上(つまり作曲)へと移され、更に音符の細分化へとつながっ
ていくのである。

ティポ・サウンドの変遷〜曲作り

 ティポにおける最初の3連ものの作品である「重力異状の競馬場」。基本的には4
拍子のリズムを3連でとっていく。しかも各パートの3連の取り方が異なり、結果
として、フィールとしてアフターのロック・ビートも現われてくるというポリリ
ズム的要素も強い作品である。「ロックのふりした3連。私は“だまし”と呼んで
ます」と松本が言うこの作品。今掘は「今聴くともう普通だよね」と言うのだ
が、私なんぞにとってはちっとも普通ではない(笑)。今堀によれば、ポリリズ
ム的要素があったのは、この頃くらいまでで、以後“フラクタル”、“微分”
と、その方法論は常に進化をたどっている(もちろんこれらの呼び名は、コンセ
プトの上に後付けされた“言葉”であるが)。ちなみに「重力〜」に代表される
3連ものとしては、他に「無限電車」や、「子供の宗数」もそれに近いと言う。更
にこうした分け方をするならば、大まかに言ってティポの作品は、“3連もの”
と、「ティポグラフィカのアメリカ」に代表される“GO-GOもの”、そして「森」
シリーズに代表される“バラッドもの”に分かれると今堀は言う。
 最近は曲作りにシーケンサーを使用している今堀恒雄。一説によれば、昔は何
も楽器を持たずに、あの複雑なスコアを書き上げていたという。今堀とは大親友
でもある、ギターリストの三好功郎の証言によれば,「彼(今堀)の家で遅くまで
酒を飲んで泊めてもらった時、朝、物音で目をさますと、何も楽器を持たずに正
座して前にかがみこんで、スラスラとスコアに音符を書き込んでいる今堀くんの
姿があった」(!)という。本人は、「そんなことあったかなあ」と照れている
のだが、まあ、以前はエンマ帳のようなものを持ち歩き、メンバーが何人いるか
を想定して、曲の構造のスケッチとかをしていたというが、現在の彼の曲作りの
お供は、もっぱらロ−ランドのMC500である。
 シーケンサーの使用は、曲作りの上でもひとつの変革をもたらしたようだ。
「重力〜」のあたりまでは、頭の中でつくっていて、どうしても最初に譜面にお
こすから、数字的になるんですよ。でもシーケンサーを使い始めてからは、自分
の“なまり”をそのまま音に打ち込めて、後から譜面におこすことができるよう
になったから、数字で割り切れるものでなくても大丈夫になった。グシャってく
ずれたものでも、機械はデータとして残るから。使うツールによって、曲が全然
変わってくるというのもおもしろい」。
 曲を聴けばわかるように、それでもこれだけのものを打ち込むというのは相当
たいへんな作業であるはずだ。「確かにたいへんだけど、馴れれば問題ない。基
本的にボクは機械を完全に使いこなすのが大好きだから。打ち込み自体は1曲2〜
3日もあればできる。それよりも譜面におとす方が数倍たいへん」。なるほど、ご
もっとも。まあ、好きで打ち込んだ自分の音符なのだから、譜面におこすのに苦
しむというのも自業自得(?)というものかもれないが、それにしても、そうし
た作業を黙々とこなしていることに、ズボラな私としては本当に頭が下がる。そ
う言えば、「新しき猿のように」を始めとして、シーケンサ一で音符を目くら打
ち(オッと、これは差別用語か?)している箇所もいくつかあるとのこと。その
ことをメンバーに言うと怒るそうであるが(そりやそうだろう…笑)、それでも
しっかりとスコアにおこしてきて、しかもすべて自分できちんと弾けるようにし
てくるところが、やはりバンマスの面目躍如といったところであろう(弾けなきゃ
更に怒るよな)。
 というわけで、気になるティポのリハーサル。「リハは、もうほとんどコレ
(つり目)ですよ」と言って松本治は笑う。一方、今堀恒雄は、「最近はみんな
馴れてきたから、曲の上がりもはやくなってきた。最近の新曲だって2〜3回くら
いのリハでできたし」と言うのだが、傍では「そんなことないよ(笑)、という
メンバーの声も…。
 さて、次回ではそのあたりについて、実際のリハーサルのリポートも交えなが
も、ティポのサウンドが生み出される舞台裏ものぞいてみたい。更には、ティポ
のもうひとつのキーワードともいうべき、“なまり”と、“リズムの進化もしく
は細分化”ということを軸に、ティポ体験を味わっていきたい。そして、ティポ
のメンバー全員が参加している、松本治率いる、ストレス/ビッグ・ストレスも
同時に紹介していく予定である。
JAZZ LIFE '92年1月号より