グルーブすること、それからユーモア
なんか大切にしていきたいと思います。

今堀恒雄[ティポグラフィカ]



 フレッド・フリス、ジョン・ゾーン、山下洋輔、平沢進、梅津和時、高野寛、
遊佐未森など、多くのアーティストからその才能を認められた新進ギタリスト、
今堀恒雄。先頃発売された金子飛鳥(violin)のソロ・アルバムでも、彼はその
革新的なギター・スタイルを存分に披露している。まだ認知度は低いが、今堀も
優れた若手ミュージシャンのひとりとして、GMは彼をぜひ紹介しておきたい。
まずは彼自身のバンド、ティポグラフィカの話から入ろう。



●ティポグラフィカは結成して5年になるようですね。結成のきっかけからら今ま
での活動状況について教えてください。
○最初はフレッド・フリスたちのマサカーとかゴールデン・パロミノスとかを聴
いてショックを受けたことがきっかけになったんです。あの短い単位で崩壊して
いくような形がありますよね。その方法論を持ってして音楽をやってみようかと
思って。それで、当時同じ音楽学校にいた菊地成孔(sax)とふたりでバンドを組
むことにしたんです。それから水上聡(k)や、今とは違うメンバーも加えて始め
たんですね。で、最初の頃はフレッド・フリスのような音楽性と、ブリティッ
シュ・トラッド的な要素も少し混ざっていたんです。そして結成してからl年くら
いたった頃に原宿クロコダイルで初のライブをやったんですね。その後は六本木
のインクスティックとか、同じく六本木のピットインに出るようになりました。
それと平行してリズム隊のトリオだけで新宿ピットインなどでもやってました。
●今堀さんのギターから受ける印象を言いますと、ノイジーで、アウトサイドに
も行って、非常にネジクレているんだけれども一方で人間的なユーモアや暖かみ
も感じられるんですよね。
○そうですか。
●今堀さんがノイズに注目したのはいつ頃だったんですか?
○やはりフレッド・フリスとかアート・リンゼイとかを聴き始めてからですね。
最初はそれにけっこう影響されて、ノイズ一辺倒になったりした時期もあったん
ですけど、それだと自分の中でバランスがとれなくて、徐々にそこから広げる方
向に行ったんですね。
●不思議なんですが、ティポグラフィカの音楽を聴いているとなぜかすごくホッ
とするんですよね(笑)。
○そう言っていただけると嬉いですね。基本的に自分の中では、あれで普通だと
いうのもあるんですけど。
●このバンドをやる上で今堀さんが大切にしているのはどんな部分ですか?
○まずグルーブしてるということですね。あと先ほどおっしやったユーモアです
とか、バカらしいところなんかも出していけたらいいなと。
●バンドのアルバムはまだですけど、オムニバスアルバムにはいくつか参加して
いるようですね。
○そうです。「ドライブ・トゥ・へヴン」というアルバムに曲を提供していて、
あと京浜兄弟社というところかも「誓い空しく」という自主制作盤を出していま
す。
●ポリドールから出た「アンファンII」にも参加していませんでしたか?
○それは僕がソロでやったんですね。
●ぜひティポグラフィカでアルバムを出して欲しいと思っているんですが。
○ええ、僕もそう思ってます(笑)。
●具体的な話はまだないんですか?
○一応、録るだけは録ってしまおうと思っているんですけど、レコード会社がど
こになるかとか、具体的なことは決っていないんですよ。
●難解な音楽と思われてしまうのかもしれませんね。
○CD化されたものを聴いてみたいと、どこのレコード会社でも言われるんですけ
ど、できれば違うところで作ってもらいたいとも言われます(笑)。
●それは悲しい(笑)。ひとまず今堀さんのギターが聴けるアルバムでお薦めの
ものを教えてください。
○先ほど言いました「誓い空しく」とか、清水一登さんのソロ・アルバムの
「yet somehow」。とりあえずその2枚を聴いていただけるとうれしいですね。あ
と、最近の仕事としては、以前P-MODELにいた横川理彦さんのアルパムで
「TARASCON」というのもあります。
●もうひとつ最近の参加作品として金子飛鳥さんの「MULTI VENUS」があるわけで
すが、今堀さん自身は、なぜ自分が金子さんに誘われたんだと思いますか?
○う一ん,彼女が言うには、ギター自体はずっと好きだったけれども、バイオリ
ンと役割的にも音域的にもけっこう重なるところがあるんで、なかなか普通の形
ではギターを使いにくかったと。それで普通とはちょっと違うところで使えるギ
ターという部分で僕が選ばれたんじゃないかと思いますけど。
●ギター・パートに関して、金子さん側からはどの程度指示があったんですか?
 例えば譜面の形で渡されたとか。
○コード譜がほとんどでしたね。まあギター・パートに関してはかなり任されて
いた感じです。
●曲に関していくつかコメントしていただけますか? 例えば「DEATH DANCE」で
はギターとバイオリンの音域の重なりを逆に利用して、ツイン・ギターのような
効果を出していますね。
○そうですね。この曲に関してはまあストレートにやりました。この曲ではソロ
を弾こうと(笑)。一番ストレートに弾いた曲ですね。
●こうしたソロというのは、現在の今堀さんの最も正直なスタイルと考えていい
んでしょうか?
○そうですね。次の「FROM CRATER WALLS」では、アレンジの中の一要素というよ
りは、もっと環境音的な感じでやってみようと思ったんです。こういった音の出
し方も、僕のスタイルのひとつだと思うんですよね。
●「REPLICA OF THE HISTORY」のリフはかなり面白いですね。
○最初はジャズ・ロック的な6/8の感じだったんですけど、それだけじや面白くな
いし、Grico(d)の色がもっと出るようにしたかったんです。それでギターで8
ビート寄りに持っていけるようなリフにしようと思ったんですね。リフ的にはこ
れが一番成功したかもしれないです。
●「翼は雲になって」では雰囲気のガラッと異なるソロを弾いてますね。
○これは金子さん側からリンガラ・ギタ−を弾いてくれという要望が出まして、
じゃあ弾きましょうと(笑)。
●こうしたスタイルは昔から持っていたものなんですか?
○アフリカに行ってた時に自分なりに取り入れてきたもののひとつなんですけ
ど。でもこの曲では、できればリンガラそのものにならずに、多少なりとも自分
の色が加えられたらと思いつつ弾きました。
●金子飛鳥さんと共演してみての全般的な感想を教えてください。
○アレンジされた部分は多かったんですけど、そのわりに自由度がすごく高かっ
たということがまずひとつですね。それから金子さんの言ったイメージを音にす
るという作業が楽しかったかもしれない。あと金子さんに関しては、同じ弦楽器
奏者として鷲くべきものがあると、いつも関心しています。
●ところで好きな画家っていますか?
○そうですね、カンディンスキーとか。
●本当ですか! 話がうますぎると思うかもしれませんけど、ティポグラフィカ
のライブを見ながら、この音を視覚化するとカンディンスキーのような絵になる
んじゃないかとか考えてたんですよ。
○そうですね。そうかもしれない。
●今後の目標を教えてください。
○とりあえずティポグラフィカの曲を、どんな形にせよ録音したいですね。そう
しないと次に進めないですから。それをまず片付けてしまいたいと思ってます。



ギターマガジン '92年12月号より