日本〜アジアのジャズの熱い現場を追いかけろ!
ジャズ人 【特別編】
寒川光一郎の東方JAZZ見聞録

Tipographica

菊地成孔 今堀恒雄 外山明



本連載も第1回目の林栄一から数え、先月号の菊地成孔でついに10人目。連載期間
も3年目に入った。不精で怠惰な筆者がここまで続けられたのは、本誌スタッフと
読者諸氏や関係者の方々の深い理解と応援、そしてしつこい取材に付き合ってく
れたミユージシャン達の協力があってこそである。ここで改めてお礼を述べさせ
ていただきたい。今後も「人間が好き、音楽が好き」という少々クサイ選択基準
のもと、独断と偏見に満ちた最先鋭ジャズ・シーンの現場を伝えていきたい。そ
こで、今回は連載2周年記念のスペシャル企画として“ティポグラフィカ”のイン
タヴューをお届けする。(寒川)



●ティポの全貌が今ここに
 ご承知のようにティポグラフィカ(以下ティポ)は92年1、2月号の本連載に登
場願った今堀恒雄率いるグループである。 7月、8月号に登場願った菊地成孔も参
某格のメンバーとして参加する。そのティポ待望のファースト・アルバム
(「ティポプラフィカ」[ゴッドマウンテン])が8月21日、遂にその全貌を現す。
既に彼らのライヴに接しておられる方はともかく、まだティポ・サウンドに触れ
たことのない人々も含め、その革新性にジャズ・シーンのみならず日本のミュー
ジック・シーンが震撼することは必至である。最近巷で話題を呼んでいるらしい
“日本ジャズ維新”(“威信”の誤りではないのか)など、彼ら抜きにしては語
れないと筆者は断言したい。
 今一度、紹介したい。今堀恒雄率いるティポグラフィカ。現在のメンバーは6
人。今堀恒雄(g)、菊地成孔(ts.ss)、松本治(tb)、水上聡(kb)、佐野篤
(b)、外山明(ds)という布陣である。現在は新宿ピットインを中心に活動中。
「ナマリ(訛り)」「ゆらぎ」という概念を生かした独特のリズミック・アプ
ローチと、緻密な作・編曲力と、高度で圧倒的な演奏力を駆使した、まさに最先
鋭音楽集団と呼ぶにふさわしい存在である。
 今回のインタヴューに参加してくれたのは、今堀、菊地、外山の3氏。この日は
リハーサル前の数時間。話はまずレコーディングのことから。
---やっと待望のCDが完成したわけだけど、上がりの感想とかも含めてどうでし
た?
外山:楽しかったです(笑)。もう(ティポでやるのは)生きがいだから
(笑)。
今堀:難しかったです(笑)。レコーディング自体が非常に難しかった。つまり
レコーディングの方法論が、セッションで一発でやるんじゃなくて、ダビングが
結構多かったから。そもそも演奏が難しいでしょ。それにキーボードの役割がふ
たり分いっぺんにやったりしてるのもあるんで。それだったら後から入れてし
まったほうがいいだろうってことで。
---あァ、そうなんだ。ボクはどちらかと言うとティポっていうのはスコアは難し
いけど、“せえの”でいくライヴ感覚が常に魅力だと思っでるんだけど、そうす
ると今回のはちょっと変わってくるんじゃないかな。それとみんなパート譜じや
なくてスコア見てやってるし、複雑な相関関係でなりたってるから、それを切り
離して録るのは意外とたいへんでしょ。
今堀:ダビングで録る人はたいへんだったよね。最初に録る段階でも大変だった
し。後から入る音を想定してイメージして演奏するし、後から入れる方も既に
入ってる音の分までやっちやったりするでしょ。
---それにしても今回の上がりは実にナマ音に近い。
今堀:そう、確かにリヴァーブも少ないし。
菊地:いわゆるチェンバー・サウンドと称される音楽のサウンドたよね。要する
にフュージョン・サウンドってあるじゃない。ドンシャリでリヴァーブが効いて
て、ワイドでパワフルで。ああいうんじゃないから。でも一回こういうサウンド
で出しとくのは、音楽がより明確になっていいと思う。

●幻の川原レコーディング
---今回のレコーディングはいつ頃から?
今堀:そもそも最初に録り始めたのは秋頃。川原でドラムを録ったんですよ。
外山:川原で録ると、ものすごくいい音がするんだよね。空気の音までよく録れ
て。それで川原にタイコ組んでマイク一本で録って(笑)。
今堀:あそこにマルチ持っていったら、本当にいい音がすると思うね。
---それはどの曲がそうなの?
今堀:いや、結局今回は使わなかったんたけど。
---じやあ、当初ほそれをベーシックにしようと。
今堀:うん、それもちょっと考えた。
---ということは、ドラムだけを川原でバーッと録って、後で他のパートを全部か
ぶせるわけ? しかも、あのティポの難曲を?
今堀:バカみたいだよね(笑)。結局バランス的に問題があって、重ねるまでは
いかなかった。予算と根性があればできると思うけど(笑)。
外山:いつかはやってみたいよね。

●大盛況、ティポ・ツアー
---今回の選曲は全部今堀さん?
今堀:そうです。ラィヴでできるギリギリのところを出そうと。もうラィヴでは
やりたくないようなものをCDで出してしまって、もうやんなくていいことにしよ
うかなと(笑)。
菊地:でも、CD出た直後はこの選曲でやった方がいいんじやない(笑)? CD
買って来たら知らない曲ばっかだっていうんじゃさ。また、「全然わかんねえ
や」とか言われて(笑)。
---今回出すゴッド・マウンテン・レーベルは、ホッピー(神山)さんのレーベル
でしょ?そのあたりのいきさつは?
今堀:大友(良英)君に紹介されてホッピーさんに会って、話ししてからすぐラ
イヴに来てくれたんだけど、ライヴ来る前からもう、やりましょうかって感じで
(笑)。
---ホッピーさん自身の感触はどんな感じ?
今堀:どう思ってらっしゃるんでしょうねえ(笑)。
---そう言えばこの間、今回のCD発売に先駆けてツアーに行ったわけだけど、反応
はどうでした?
今堀:名古屋、神戸は2回目だから、前に来てくれた人も多かったし。
菊地:東京から追っかけて見に来てくれた人もいたしね。あれにはびっくりし
た。
外山:宮崎でやった時も、福岡の人が見に来たもんね。
今堀:相当反応はよかったよね。
外山:大反響だったよね。

●ティポ、フュージョン説(?)
---最近はライヴでやってるアンケートの反応はどうです?
菊地:そう言えば、最近一通あからさまな批判があったんたよね。たぶんそいつ
は恐らくリコメンとかノイズのファンだと思うんだけど、それはおもしろかっ
た。実際に聴いた感じが嫌だったんだろうね。こんなの「ただのフュージョン」
だっていう論法ですね。それはたぶんアドリブがあるからなんだろうね、彼らに
とっては。ただのフュージョンやるんだったら、フレッド・フリスの真似する
なっていう(笑)。
---ひでえ(笑)。でもその一方で、いわゆるオーソドックスなジャズ・ファン・
サイドからみたフュージョン説っていうのもあって、それは難解さと作・編曲の
占める割合が多いからってことだと思うんだけど。
今堀:そう言えば、イクとかイカナイとかいうことをアンケートに書いてる人が
いるよね。もっとイッテもいいんじゃないかって。
---つまり、単なるエネルギーとかパワーを求めてるっていう。
今堀:そうそう。
菊地:だから、ノイズとジャズっていうのは、一見相反してるように見えるけ
ど、実は裏ではインプロってことで手を組んでるんですよね。つまり、あまりに
カチッと編曲されて、その作品か素晴らしいっていうやり方をされると、フュー
ジョンってことになっちゃうんじゃない(笑)。

●新たなティポ・ファンの出現
---最近ライヴをみてると、以前にも増して女の子のお客が増えてるように思うん
だけど、今堀さんが高野寛氏の仕事をやりだしたことにも関係するのかな?
今堀:そうですね、ある程度は。
菊地:いや、ずいぶん来てるよね。前の方はそういうファンが占めてますよ。そ
ういう音楽のリスナーの方が、ライヴで前の席に座るということに関する積極性
があるからね。
---しかも、意外と素直に聴いているのかな。
菊地:いやあ、ちょっとそれは謎のひとつですよね(笑)。
---いつも菊地さんほライヴのMCで尋ねてるもんね。「おまえら楽しいか?」って
(笑)。
菊地:「なんだかわかるか?」ってね(笑)。ボクはフロントにいるからわかる
んだけど、どう見てもノッて楽しんでいるんだよね。我々の考え方からいくと、
ちゃんとわかって楽しむのが楽しむことなんだけど、別にそういう記号的な情報
がわかんなくても、楽しいんだから楽しいって言われるとぐうの音も出ないです
よね。
---でも、いわゆる“ピットインに来る常連”のような人連も結構来てるでしょ?
菊地:来てるんだけど、後に追いやられてるよね(笑)。だから、もっとみんな
がんばれよと。前に出てこいよと(笑)。
今堀:あと、客が曲をだんだん覚えてきたよね。
---硬直してるんじゃなくて、曲に合わせて体を揺らしてる人も多いし。
菊地:ジャズ研とかの好き者の集団とかが、コピーしないかなあ、と楽しみにし
てるんですけどね(笑)。

●待たれるアルバム評価の行方
---今回のCDのことで、これ以外にもうインタヴューとかやりました?
今堀:なぜかプログレ系の雑誌とコンピュータ系の雑誌で(笑)。聞く方も困っ
てたみたいだったけど(笑)。
---以前、某誌で“変態プログレ・バンド”と書かれたこともあったし(笑)。プ
ログレ系だと聞くこともマニアックでしょ?
今堀:もうマニアック、マニアック。「○○のような感じでしょ」とか言われて
も「いや知りません」。「××のような感じでしょ」「いや知りません」
(笑)。
---プログレのマニアックなところを聞いてくるんだ。そうすると、もう暖簾に碗
押し状態だね(笑)。
今堀:「何も聴いてません」(笑)。
---聞く方もかわいそうだよな(笑)。でも、今回のCDに関しては、聴き手や
ジャーナリズムも含めて、どんな反応が出てくるか、すごく楽しみですよね。
菊地:もう、大歓迎ですよね。悪口とかもどんどん言ってほしいし(笑)。ライ
ヴで前の方に陣取っている女の子たちを吹き飛ぱすくらいの勢いで(笑)。あ
と、寒川さんの嫌いな新伝承派の人連にも、ひとつ聴いていただきたいし(爆
笑)。
---まいったなあ(笑)。

●ティポ語(今堀語)の浸透
---ティポの語法と言える、“今堀語”の出現というのは、クリティック・サイド
としてはもちろん、プレイヤー・サイドとしての自分にとっても、ものすごく
ショックだったんたけど。つまり、ナマリという発想。そういう考え方をしても
よかったんだというのがね。その点で今後、“今堀語”の浸透というか、そう
いった価値観を持った音楽がどんどん出てくるんじゃないかなと思うんだけど。
菊地:ボクも回りの状況とかをそれほど把握してるわけじゃないけど、今エス
ニックな楽器とのセッションというのが花盛りですよね。あれも無意識のレベル
ではナマッてたり、楽器自体の音色にノイズが混じってるとかっていうものを求
めてるっていう動きだと思いますけどね。
外山:ただ、民族系の打楽器の人とジャズの人との共演は、いつもの通りにやっ
て、それを生かしたものでやればいいのに、歩み寄りすぎちゃって、変に意識し
ちゃって、虚像に近付こうとしてしまって、なんかつまんなくなってるような気
がするけどね。
---そう言えぱ、外山さんは佐野さんと、去年の暮れにアフリカに行ったんで
しょ?
外山:そう、やっぱりリズムのアンサンブルとかおもしろいし、ティポでずっと
やってたことが、ギニアとか行けばもう当たり前みたいな。4拍子と3拍子が同居
してるし、それぞれナマリかたも全然違うし。ナマリっていうのは、オレは体の
自然な動きだと思ってるんだけど、それが一杯あって嬉しかった(笑)。体の動
きからきてるから、お互いの動きがよくわかるんですよ。言葉がそのまんまリズ
ムになっているっていうかね。例えばNHKニュースのリズムと、文化放送のリズム
とは全然違うでしょ。NHKの方ほすごくステディーだけど、文化放送とかのパーソ
ナリティーの人達の口語でしゃべってるリズムっていうのは、すごリズミックな
んですよ。そういうのは自分がしゃべるリズムの中にも一杯あるし、無意誰の中
でリズムを取りながらしゃべってると思うし、自分でもそういうものをうまく取
り出してやってるような気がするんですよ。

●新たな作曲への取り組み
---前の今堀さんの取材の時、発展段階的に言えば、作曲が確立されて、アレンジ
か確立されて、その次にくるのがインプロヴィゼーションだって話があったと思
うんだけど、その意味では最近はどうですか?
今堀:まだです(笑)。
菊地:全然まだです(笑)。
今堀:それに合わせたコンポジションっていうのも含めてこれからですね。
---じやあ、作曲ということで何か意図的に新しい方向にしようとしてるんだ。
今堀:そうですね。それはある程度土壌がないとできないことだから。
---今までは、メンバー6人それぞれの口語体はあるけれど、今堀語を媒介として
やってきたように思うけど。
今堀:でも、そのレベルはもう達したと思う。それをどう変換させていくかって
いうことをできるようになってきた。自分が提供した、いろんなしゃべり方があ
るということを、それぞれに置き換えてしゃべり合うというのは、曲の上ではも
うできるようになっている。その次の段階ですね。
---するとそれをもとに、個々のレベルでのしゃべりかたを、どういう場で気持ち
良く出していくか。
今堀:それがこれからですね。それは曲が問題になってくるから。今までは構築
された上で、いろんなやり方ができるようになったと。例えばAとBという言葉を
同時にしゃべって、どういうしゃべり方をするかってことまでは決まってたんだ
けど、そういう場自体を、もっと自由度の高い形でやるのが、これからの課題で
すね。
---でも最近のライヴとか見てると、結構個々のレベルでの違いっていうのが、当
然のことながら、ますます明確にあらわれてきてはいるでしょ。
今堀:うん、その意味ではもっと自分の得意分野のことは自由にしゃべるという
場所が必要だと思うし、逆にそれに合わせて曲を作るのは、今後一切やめようか
なと思ってる。メンバーの得手不得手は長くやってるからわかってきたし、ある
程度はそれは出すけど、好き嫌いとか好みはこの際無視する。そうでないと曲が
前に進まないんで。バンドのメンバー個々の好き嫌いを顧みてると、自分がそれ
に縛られちゃうしね。それはこれから気を付けようと思ってる。まあ、これもバ
ランスの間題なんですけどね。
JAZZ LIFE '93年9月号より