複雑怪奇な曲をライブで再現!
“驚かし”を狙ったメジャー・デビュー盤



今堀恒雄率いるティポグラフィカが、メジャー・デビューを果たした。今堀とい
えば、卓越したテクニックと絶妙なセンスを持ち合わせたギタリストとして、業
界では引っ張りだこの達人。ティポグラフィカは、彼がシークエンサーを駆使し
て作曲した、フランク・ザッパもびっくりの複雑骨折サウンドを、いずれ劣らぬ
ワザ師ぞろいのメンバーたちで演奏するユニットで、すでに長い活動歴を持って
いる。長らく「最後の大物」扱いされてきた彼らが、一昨年ホッピー神山の個人
レーベル、ゴットマウンテンからアルバムを発表した時には、遅すぎたデビュー
と言われたものだった。それが今回、遂にメジャーと契約したわけである。



ライブの彼らの魅力を前面に押し出したデビュー作



「ゴットマウンテンの作品にも満足していますが、次はもっとじっくりと時間を
かけられるところでやりたいと思っていた。そんな時、ちよっと変わったレコー
ド会牡のディレクターがいて、僕らのライブを見に来たんです。最初はよくわか
らなかったらしいんですが、まけん気の強い方で(笑い)、最終的にいっしょに
やろうということになったんです」ティポグラフィカのメジャー第1作は、大方の
予想を裏切って(?)ライブ・アルバム。確かに彼らのライブには定評がある。
ややこしい曲ばかりなのに不思議なグルーブ感のあるサウンドは、ナマで体験す
るとまた格格だし、いつも飄々としている今堀と、スパンク・ハッピーのメン
バーでもあるサックス奏者・菊地成孔の軽妙極まるMCのコントラストも、独特の
ユーモラスな雰囲気を醸し出している。しかし、やはりいきなりライブ盤という
のは、冒険ではないのだろうか?
「1枚目を聴いた人の印象として、ライブとの雰囲気があまりに違い過ぎるという
ものがありました。それは意図したことでもあったんですが、まずライブでの
ショックをストレートに出してみてはどうかというディレクターの意見があっ
て。あとはコレをナマでやってるんだ! という、半分“驚かし”的なところで
すね(笑い)。来年早々にはスタジオでの新作を録ることになっているので、僕
の気持ちちとしては、2枚で一組というようなつもりなんです」



今堀が「訛り」と呼ぶ、彼らのユニークなリズム感覚



実際、完璧なアンサンブルによる奇妙キテレツな演奏の連続は、ちょっと他のバ
ンドでは味わえないスリルを持っている。名曲「裸のランチ」のゴーゴー・バー
ジョンで幕を開けるのも、ライブならではの趣向だ。
「アフリカン・ビートとかゴーゴーなどのリズムは、ライブに関してはかなり取
り入れています。ティポグラフィカの論理的な背景とは別の部分で、こうしたタ
イプの音楽はストレートな即興演奏と絡めやすいんです。ただ、作曲面について
は次回のスタジオ作に期待してほしいというのが本音ですね」
今堀の作曲法は極めて理論的だが、でき上がった曲には、彼が「訛り」と呼ぶユ
ニークなリズム感覚が横溢していて、難解さを微塵も感じさせない。とにかくノ
レて、しかも妙に笑えるのだ。このどことなくとばけた感じは、物静かな今堀
が、「お笑い」に一家言持っていることと、決して、無関係ではないだろう。
「最近ダウンタウンの松ちゃんがトークの時に語尾を上げるようになったのが、
ちょっと残念なんですよ」
このこだわり方が、また彼らしい。

SPA! '95.11.29より