第五話  
「アイムアタイムトラベラ〜なぁ〜んちゃって」 
〜南野陽子版『時をかける少女』
 
(初出:1998年3月11日友人へのダイレクトメールにて)
 
 
ノンちゃん「ねぇ、ど〜れ、ママのお星さま?」 
吾朗「ほら大きくて一番明るいやつ」 
ノンちゃん「あぁ、あれがママのお星さまぁ?すてきぃ。あの星に行ったら、ママにあえる?」 
吾朗「うん会えるよ」 
ノンちゃん「いいなぁ。行きたいなぁ」 
吾朗「そうだね行ってみたいね、あんな遠く。どんなかな、宇宙って」 
和子「ねぇ、空を飛べたらいいと思わない?いいでしょうね」 
(南野陽子版『時をかける少女』のオープニングの場面より)
お母さんが亡くなって、喫茶店「ラベンダー」を一人で切盛りする父親と、まだ幼く母に対する想い出がない妹ノンちゃんと横浜に暮らしている中学3年生の芳山和子。
彼女が、吾朗とノンちゃんと一緒に望遠鏡を覗いている夏の夜のシーンで物語の幕が開きます。
その時、制服姿の一人の青年が現れ、なれなれしく三人に話し掛けます。一夫の登場です。
訝る3人の各々の顔に光の輪が浮かび、一夫が昔からの友達であることを想い出させます。

物語はその後、「実験室で試験管が割れてラベンダーのかおりの薬を吸い、和子に超能力が備わり」ます。
倒れた日の、吾朗と一夫との帰り道。和子はあの薬のかおりをどこかでかいだことがあるのを想い出します。その時サッカーボールを追いかけていった吾朗にトラックが接近し、和子が自転車に乗ったビール屋さんにぶつかります。「ガッチャーン」割れる荷台のビール瓶。また、吾朗と一夫との帰り道。和子はあの薬のかおりをどこかでかいだことがあるのを想い出します。その時サッカーボールを追いかけていった吾朗にトラックが接近します。吾朗が引かれそうになることを察知する和子。吾朗は和子の悲鳴に助けられます。

大掛かりな撮影は、主役のスケジュール調整ができなかったためか(?)、「同じ地震と吾郎ちゃん家の火事を二回経験」する場面はありません。その代り「拭いている時に落としてしまったコーヒー皿をまた拭いたり」「片づけようとして落としてしまった風鈴をまた片づけたり」します。

ふしぎな経験をしている和子は、吾朗と一夫と福島先生を交えて自分が所属している天体クラブの会合を開きます。和子が核心に迫った時に吾朗と福島先生の動きが止まります。一夫が和子以外の時間を止めたのです。
一夫は和子に秘密を明かします。彼は、27世紀から、現代に訪れた未来人であり、天体学者である彼は、「ある彗星の観測に来た」のです。実験室で薬の調合をしている時に、和子が実験室に入ってきてしまったのです。
彼は、物が割れる音を聞くと和子がタイムトラベルしてしまうことと、彼女の能力では一日以上タイムトラベルするとひどいことになることを告げます。

そんな話は、このおてんば娘には聞こえません。祝うのを忘れてしまった2日前のパパの誕生日に行くために、自ら喜んで近くのコーヒーカップを割っちゃいます。すると、ひどいことが起こります。到着する場所の制御ができない彼女は、2日前の近所の男湯に飛び込んじゃうのです。和子を追っていった一夫はなぜか女湯に…。そして、鼻血ブー

どんなことがあったって、和子は自分の能力をたくさんの人に親切をするために使っちゃいます。
「パパが作り忘れたコーヒーゼリーを作りに昨夜へ」(ただし、できたのはしょっぱいコーヒーゼリー)
「深町宅で畑を耕すために前日の早朝に」(顔をどろんこにして)
「吾朗がサボった柔道の練習を代りにするために夕方へ」(がんばって縦四方固めを返そうとします)
調子にのった和子をこらしめる一夫は「バレーの特訓へのトラベル」や「プールへのテレポーテーション」のいたずらをしかけ、和子をこらしめます。

和子も仕返ししちゃいます。吾朗と一夫の天体観測の合宿の打ち合わせでは、秘密を喋っちゃおうとして、一夫にいたずらを謝らせます。ある朝、一夫にからかわれた和子は、登校時の校門で「この人未来人です!」と騒ぎ、一夫を慌てさせます。

ある日、明日の天体クラブの合宿についての話し合いをする約束をしたのに、なぜか吾朗の家に来なかった一夫は、問い詰める和子に未来の風景を話します。未来では、人間は全て人工受精で生産され、家族というものはなく、みんな一人ぼっちです。
一夫は、和子や吾朗の家族の存在がとてもうらやましかったのです。

一夫の秘密を聞いた後、家に帰った和子は、パパの沈痛な表情を見ます。今日が、いつもは親子3人墓参りしていたママの命日であることを忘れてたのです。
タイムトラベルしようとグラスを次々に割る和子。でも、もう薬の効き目は切れてしまっていたのです。新しい薬を一夫にもらった和子は、自室で薬をかぐのですが、そこにノンちゃんが入ってきます。
翌日、いや前日、和子とノンちゃんが倒れている和子の部屋で倒れているのをパパが見つけて驚きます。二人を起こしたパパは三人でママのお墓参りへと出向くのですが、その途中で花瓶を割ったノンちゃんがどこかにタイムトラベルしてしまうのです。

慌てた和子は、天体観測の合宿に吾朗たちと向かおうとしている一夫に、一緒に探してくれるようにお願いし、彼らは時間と空間の狭間である「時空間」を探します。しかしそこにはノンちゃんの姿はありません。和子には思い当たることがあります。ノンちゃんは、和子の部屋に飾ってある、太陽の塔の前に立つ若かりしパパとママの写真をいつも見つめていたのです。
しかし、万博はもう15年前のことです。そんな昔へのタイムトラベルは、タイムトラベラーの命を削ることになるのです。拒絶する一夫。でも和子の哀願に、一夫は和子の両親の写真を持ち、静かに和子の肩を抱きます。

15年前の万博の地に降り立った彼らは、ノンちゃんと遊んでいるママの姿を見ます。ボーイフレンドであるパパに、ママは和子とノンちゃんを自分の子供として紹介します。和子は気付きます。あの実験室で和子がかいだのは、ママの香水のラベンダーのかおりだったのです。

さて、その時、一人で墓参りをするはめになったパパは、やっとママのお墓の前に戻ってきた二人を「どこに行ってたんだ。ママのお墓に挨拶もしないで」とたしなめます。和子は答えます。「私たちもママにご挨拶してたのよ」

今回は、両親が床屋さん
#予算の都合からか(?)、その看板は「**理髪店」の内「理髪店」の箇所しか見せないので正確な店名は不明です。
                      の一人息子で、眼鏡短髪の吾朗ちゃんは、いい味を出しています。

和子と一夫は、天体クラブの合宿場である高原にテレポーテーションします。
一夫は和子以外の時間を止めて、これから800年間は訪れることがない彗星を二人だけで見つめます。
しかし、15年間という長い時間をその時代の人間である和子にタイムトラベルさせてしまい、歴史を変えてしまった一夫は、タイムトラベラーの掟ゆえに自分の時代へと戻らなければなりません。パトロール隊もすぐそこまで迎えに来ています。
一夫が戻ると同時に、一夫に関する皆の記憶も消えるのです。一夫は告げます。

「君のためにぼくしかやってあげられないようなこと。ぼくはそれができたんだから、幸せだよ。とても」

2人は固く握手します。緑の光線が柔らかく一夫を包み、彼の姿が消え去ります。
その一瞬後、皆が動き出します。光る流れ星に、願いをかける和子。吾朗にからかわれた彼女はこう答えます。
「素敵な恋人と結ばれますように。あら、まだ吾朗ちゃんと決めたわじゃないのよ」

若き日の両親と会ってしまった和子達は歴史を変えてしまったのでしょうか。どうもそんなことはないようです。喫茶店「ラベンダー」がいつもの夜を迎えます。
いえ、でも、ノンちゃんだけには、見えるのです。和子の部屋の写真には、パパとママだけの姿ではなく、パパとママと和子とノンちゃん、家族みんなが太陽の塔の前で微笑んでいるのです。

ある朝、かって一夫が住んでいた家に、和子たちと同い年の家出した孫息子が戻ってきます。おじいちゃんの手伝いをさせられるその子を見て、微笑む和子。吾朗が和子を見て不思議がります。彼女は言います。「ちょっとね。想い出してたの。か・ず・お のことを」その名前に覚えのない吾朗の疑問はさらに増します。彼女は教えてあげるのです。

「2660年の未来人なの」

 
キャストなどをご紹介しましょう。BGMは、南野陽子の「アプローチ〜接近」をどうぞ
 
遠  フジTV局製作テレビ「月曜ドラマランド」 
く  1985年11月4日 カラー作品 90分 
 
ら      演出:高橋 勝 
ほ     脚本:城谷 亜代 
 
ア      芳山和子:南野 陽子 
プ     一夫:中川 勝彦    (一夫と吾朗は名字が明かされない。 
ロ     吾朗:伊藤 康臣     理由は不明) 
 
 
「ヒメアカタテハとラベンダー」
(上記の画像をクリックすると
大きな画面になります)
 

 
タイムトラベル史にとって、この作品が放映された1985年は、カリフォルニアのヒルバレーでドク博士がタイムマシンを発明した画期的な年です。その成功が、大ヒットした前作の原田版から2年しか経っていない『時をかける少女』のリメイクを急がせたのでしょう。

最近私はこの作品をビデオで始めて見ました。実は見る前には不安があったのです。この作品は「月曜ドラマランド」の内の一つなのですが、『仮面の忍者赤影』がこの枠内でリメイクされた時には、赤影が女湯を覗くというふざけた描写があり、元の作品のファンである私を深く失望させたからです。
実際に南野版を見た時には、この作品の前半部分で、時間移動をした後の現在時を示す演出が「…2日前の朝…」など安易に字幕だけで表現してしまったり、女湯に空間移動した後、女性の裸を見て鼻血ブーの一夫を見た時には、正直、こりゃだめだと思いました。しかし、この作品は単なるアイドル作品に終わりませんでした。
未来人が家族に対する渇望を吐露する場面があるのは、この作品だけです。その想いが、ノンちゃんが消えた時に、最初こそ「ノンちゃんも15年前の人間になるんだ」と冷たく突き放したのですが、和子のたった一人の妹への心情を聞いた時に助けに行くことを決断させるのです。
#よって、鼻血ブーの描写も許してあげよう。
また、ラベンダーという花にママの想い出という大きな意味をもたせたのも、この作品の特徴です。

時代性と言うのも何ですが、やはり1985年には、1970年の万博の余熱が残っていたのでしょう。和子が言う「アイムアタイムトラベラー *な〜んちゃって*」も時代性かな。「彗星を観測しに来た」というのもハレー彗星を意識したもので、「人工受精」というキーワードもそれっぽいですね。

さて、「アプローチ〜接近」が流れるこの作品のエンドクレジットでは、和子、一夫、吾朗が三人並んでサッカーボールを蹴りながら歩いて行きます。ボールが和子に廻ってきます。遠くに蹴ってと指差す一夫。和子が劇中「私、スポーツ苦手なの」と言うセリフを証明するように、えいっと、思いっきり空振ります。南野陽子のあまりのずっこけに、笑う中川勝彦と伊藤康臣。恥ずかしがるナンノ。みんな楽しそうです。

中川勝彦は、その後、ミュージシャンとしても活躍しました。絵本も描いた彼は、病に倒れ、1994年にお星様へと旅立ちました。中川さんは、時空間を翔ける永遠のトラベラーになりました。

伊藤康臣については、インターネット上の検索システムで調べたのですが、彼の13年後の姿は現代の「電脳空間」では発見できませんでした。

ナンノは、恐ろしい「芸能空間」で13年の時を駆けていきます。
上記で、「主役のスケジュール調整ができなかったためか」と表現したのは、撮影時に彼女が有名だったことを意味しているのではありません。この作品がドラマ初主演だった彼女は、むしろ無名だったことでしょう。
「バレーボールの特訓シーンでアザだらけになっちゃいました」とこの作品の撮影時に言っていたナンノ。しかし、もっと大変な撮影と、そして栄光が彼女を待っています。
この『時をかける少女』の放映3日後に始まる『スケバン刑事II』が彼女にトップアイドルの仮面を被せるのです。
1987年から翌年にかけて『はいからさんが通る』『吐息でネット』など8作連続オリコンチャートNo1を獲得。主演映画のヒット。大河ドラマ『武田信玄』での準主役。
しかし、始まる女性週刊誌でのバッシングと人気の陰り。かって「自分の唄は下手なんですが、好きである唄を歌うことができます。そんな今が、とっても楽しいんです」と自分のDJ番組で語ったナンノ。彼女のシングルレコードが最後に出たのは1991年でした。
「水着撮影はいや」とさえ言っていた彼女が脱皮を図るための『寒椿』『私を抱いてそしてキスして』。だけど、次作の『ドライビングハイ』のビデオは、今や神田の中古ビデオ屋で250円の値をつけたまま山積みされています。
人気ミュージシャンとの恋。でも、成就しなかった恋。

可愛らしい微笑みとチャーミングなほくろ、そしてなにより彼女の無名さが、視聴者に奇妙な感じを抱かせなかったのでしょう。律義に(?)原作とおりの14歳の芳山和子を演じたナンノの実年齢はその時、17歳でした。原田知世と同い年の彼女は、昨年1997年、やはり自らの二十代にお別れを告げました。
好きな言葉が「Beautiful Aging」であるナンノ。別れた昔の恋人が結婚した時に、芸能レポーターのインタビューに彼女はこう答えます。「私にも未来がありますから」
そうだよナンノ!今年、私は久しぶりにドラマでナンノを見ました。大林宣彦監督の自伝的作品を映像化した『マヌケ先生』と大林監督作品の『三毛猫ホームズの黄昏ホテル』です。華のある美しい顔立ちは、銀幕という「夢の空間」で美男美女が恋をする大林作品にピッタリです。可愛らしい微笑みとチャーミングなほくろは、今も輝いています。
がんばれナンノ!!かってのDJ番組で、何度も言ってたあの言葉。も一度言ってよ、元気良く。

「ナンノ、これしきっ!!!」

「この作品の9年後、原田版からは奇しくも11年後、原田版で成長した和子が暮らしている1994年に、溌剌とした、そして恋に悩む和子がブラウン管に還ってきます。内田有紀版『時をかける少女』 の話は、第六話:「あなたがくれた その面影に」で、又」
 

 
 
このページの主な改訂履歴
改訂日付 改訂内容
1998/05/05 新規作成
1998/05/17 撮影日の判明による事実誤認の修正 
南野陽子のこの作品に対するコメントの追加 
「ナンノ、これしき」→「ナンノ、これしきっ」
1998/06/28 中川勝彦さんの情報の追加
 
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